伊藤沙莉 父親が姿を消した幼少期――「普通の家族」を必死に守った日々

朝ドラのヒロインとして、そして映画やドラマで唯一無二の存在感を放つ女優・伊藤沙莉。
派手さよりも、心の奥にすっと入り込んでくるような演技が印象的です。その理由をたどっていくと、彼女の生い立ち、そして伊藤沙莉 父親という存在に自然と行き着きます。

伊藤沙莉は千葉県出身。三きょうだいの末っ子として生まれました。
父親は道路工事関係の会社を経営し、多くの外国人労働者を雇うなど、当時は一家を支える存在でした。しかしバブル崩壊の影響を受け、会社は倒産。沙莉がまだ2歳という幼さの頃、両親は離婚し、父親は姿を消します。

父の蒸発は、ただ「父がいなくなった」という出来事ではありませんでした。
住む家を失い、借金取りが訪れ、自宅は差し押さえ。
それまで当たり前にあった日常が、ある日突然、音を立てて崩れてしまったのです。

伊藤沙莉 父親不在の中で覚えている「長すぎた1週間」

伊藤沙莉は、幼少期の一家離散について、後年こう振り返っています。
「家がなかったのは、何カ月も続いた気がしていた。でも大人になって母に聞いたら、実際は1週間くらいだった」

大人にとっての1週間と、子どもにとっての1週間はまるで違います。
親と離れ、知らない場所で過ごす時間は、時計では測れないほど長く、不安で満ちていたはずです。

姉や兄とも別々に預けられ、母が家を探している間、沙莉は親戚のもとで過ごしました。
迎えが来るかどうか分からない時間の中で、ただ待つしかなかった幼い心。
だからこそ、「お家が決まったよ」と母が迎えに来てくれた瞬間の喜びは、今も鮮明に残っているのでしょう。

このエピソードは、父親がいなかった現実と同時に、
**「必ず迎えに来てくれる人がいる」**という、何より大きな安心を伝えてくれます。

伊藤沙莉 父親の代わりに築かれた「寄り添う家族のかたち」

その後、伊藤沙莉は母、伯母、きょうだいとともに暮らすことになります。
決して広くはないアパート。布団を3枚敷き、5人で寄り添うように眠る毎日。
それでも彼女は「一人部屋が欲しいと思ったことはなかった」と語っています。

思春期になっても、家族と一緒にいる時間の方が心地よかった。
団地に引っ越して部屋数が増えても、自然と家族が集まる場所にいた。
その言葉から伝わってくるのは、「寂しさ」よりも「温かさ」です。

父親が不在になったことで、家族の距離はむしろ近くなったのかもしれません。
言葉にしなくても、同じ空間にいるだけで安心できる。
そんな空気が、伊藤家には流れていました。

伊藤沙莉 父親の不在を埋めた母と伯母の背中

伊藤沙莉 父親が家庭から消えたあと、家族を支え続けたのは母と伯母でした。
母は夜の仕事から早朝の牛乳配達へ、そして未経験だった塗装業へと転職。
今もなお現役で屋根に上り、家を塗り続けています。

危険も多く、体力的にも厳しい仕事。
それでも子どもたちの前では弱音を吐かず、いつも明るく笑っていたといいます。
「ネガティブな表情を見たことがない」という言葉には、日々を必死に守ってきた強さがにじみます。

ゴキブリが出るほど古いアパートから、団地に引っ越したとき、
伊藤沙莉は「お城だ」と言ったそうです。
その言葉を聞いた母がかけた
「どんなにいい家に住むようになっても、この気持ちだけは忘れないで」
という一言は、生活そのものが教えだったことを感じさせます。

伊藤沙莉 父親との再会と「家族として迎えた最期」

蒸発後、行方をくらましがちだった父親。
それでも伊藤沙莉は、父と連絡を取り続けていたといいます。

著書では父を「常に逃走中だった」と表現しながらも、
完全に切り捨てることはせず、どこかで向き合おうとしていた姿が浮かびます。

父は喉頭がんを患い、入院。
痩せ細り、声も聞き取りづらくなった姿で、家族と再会しました。
兄・伊藤俊介が語った「最後の最後に家族で揃えたこと、妹には頭が上がらない」という言葉は、
沙莉がどんな思いで父と向き合ってきたのかを物語っています。

父親として十分にそばにいられなかった時間は戻りません。
それでも、最期に“家族として”向き合えたことは、
長い年月をかけて積み重ねてきた関係の、ひとつの答えだったのかもしれません。

まとめ|伊藤沙莉 父親の不在が照らした「当たり前」の尊さ

伊藤沙莉の人生は、決して順風満帆ではありませんでした。
父親の蒸発、一家離散、貧しい生活。
それでも彼女の言葉や佇まいから感じられるのは、恨みよりも感謝、諦めよりも温もりです。

家族がそろってご飯を食べること。
同じ布団で眠ること。
それがどれほど尊いことなのかを、体感として知っているからこそ、
彼女の演技は人の心に静かに届くのでしょう。

伊藤沙莉 父親という存在は、不在でありながら、
彼女に「人と生きること」の輪郭をはっきりと教えました。

そして今も伊藤沙莉は、支えてくれた人たちへの感謝を胸に、
一つひとつの役に、誠実に向き合い続けています。

それはきっと、多くの家庭にとっても、
静かに背中を押してくれる物語です。

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